ドキュメンタリー 八甲田大岳「駒の雪」を探る

 その四   6月9日



 ◇   6月9日。「駒の雪」の完成はまだまだの感・・・・。

6月9日。時期になると「駒の雪」が眺望できる青森県東部の七戸地方は雲におおわれていた。
八甲田山から津軽地方はよく晴れ上がっている。
八甲田山に接近した中腹部から「雪形」の推移を撮影することにした。



写真@ 八幡岳登山西口からの北八甲田山。(6月9日)

写真A 田代高原から大岳のアップ。東北東側の「駒の雪」の雪渓はまだまだ厚く被われている。(6月9日) しかし、写真Bが示すように、現地では長い冬から一日も早く抜け出そうと激しい雪消えの胎動が感じられる。(6月4日、棟方氏撮影)

津軽などの西から眺めると、大岳はそこかしこにわずかの雪が残されているに過ぎないのに、東からは白と新緑の緑が美しいコントラストを示す。八甲田山の東北側はこんなにも雪が厚かったのか、また「ヤマセ」などがもたらす冷涼な気象がこんなにも山頂部の春を遅らせているのか、と驚く。 HP「青森の自然」オーナーの棟方氏は5日前に「駒の雪」雪渓の現地を踏破されたが、積雪はまだ5mもあったという。しかしその風景はすごみさえ感じさせるもので、雪渓は雪崩を起こし各所に亀裂を生じ、遅い春を起こすために遠目には遅々としているが激しい胎動をしているのだ。

 ◇   八甲田大岳、残雪の4態を見る

それにしても、向きによる積雪の極端な違いとか、消え方の遅速はどういうことなのだろうか。考察は別の機会に譲るとして、ここではその事実を4枚の写真に委ねたい。



写真C 北北西の青森市桜川からの大岳。(6月4日)


写真D 北北東の田代高原からの大岳。(6月9日)




写真E 南側の睡蓮沼からの大岳。(6月9日)


写真F 西南の酸ヶ湯温泉からの大岳。(6月9日)

写真Cは「青森の自然」トップページに時系列的に掲げているアングル。大岳に対して北北西から約20q離れたところからの眺望。右側の円錐形の山が大岳で左下の小さな雪渓が「駒の雪」の上端部にあたる。ほかには雪はない。写真Dは北北東の田代高原からで距離は5q足らずの至近。左側の東斜面の雪は厚いが反対側の西斜面には皆無。これは上記写真Aの右から見たアングルに相当する。写真Eは八甲田山中の睡蓮沼からで南からの眺め。写真Dとは逆の位置関係になる。写真Fは大岳の登山口にあたる酸ヶ湯からで、もはや豆粒大の二つの雪渓が残るに過ぎない。ここは西南に面していて、積雪が少ないのかあるいは融雪が早いのか、「駒の雪」側とは好対照を示している。
このように、積雪や融雪、さらには各種の気象因子が絡み合ってもたらす微気候は、この山塊の変化に富んだ植生に微妙な影響をもたらし、その実態は本HP「青森の自然」の各種資料に詳しい。

◇    八甲田山、青森市など西北西部からの雪形

「青森の自然」トップページでは、雪形「三本鍬」「蟹ハサミ(Y)」「牛クビ(Z)」「種蒔翁」について、その推移を掲載してきた。八甲田山に対して北北西に位置する青森市桜川あるいは松森から見たもので、アップで示しているためその全体像を推し量るには難があったと思う。またこれらの形状が「雪形」のすべてでもない。「雪形」は見る位置が僅かにずれても変形していく。5月28日と、約10日後の6月8日、9日の写真をもとに、北寄りから見ていこう。



写真G 北北西の青森市戸山から見た北八甲田山の雪形。(5月28日) 



写真H 写真Gと同じ北北西の青森市戸山から見た11日後の北八甲田山の雪形。(6月8日、夕刻)  



写真I 北北西の青森市幸畑から見た北八甲田山の雪形。(5月28日) 



写真J 写真Iに近い北北西の青森市駒込から見た北八甲田山の雪形。11日後。(6月8日、夕刻)  

写真GとHは、青森市戸山からで北北西からのアングル。「蟹ハサミ」は左に傾いている。「牛クビ」の右に続く胴部が長い。写真Iの青森市幸畑、写真Jの同駒込は桜川や松森とほぼ同じアングル。雲の表情も多彩だが、この時期はなかなかクリーンな映像は撮りにくい。ことしはずいぶん恵まれたといってよい。ただ雲に隠れている日数が非常に多いのは例年と同じである。
雪形は本来、人里から見るものだがときにはずっと接近して見たくもなる。写真Kは前述の戸山とほぼ同じアングルだが山腹から見たものである。左側に「蟹ハサミ」が下が切れて見える。右の円錐形の峰は前岳で不規則な雪渓は「種蒔翁」の崩れた状態。
展望位置をさらに南にとり八甲田山に対して北西の青森市上野から見る(写真M)。「蟹ハサミ」は変形し、この土地の人たちは「雁」と呼んでいる。写真Lは、同じアングルで山に接近した十和田北線ルートの岩木山展望所から撮影した。下に向かって軽快に飛ぶ雁の姿が美しい。


写真K 写真Hの戸山とほぼ同じアングルだが、山腹から
見上げると「蟹ハサミ」の下部が切れて見える。(6月9日)    


写真L 「蟹ハサミ」は変形し、下に向かって飛ぶ「雁」
となる。(十和田北線岩木山展望所、6月9日)


写真M 北西の青森市上野か見た北八甲田山の雪形。「蟹ハサミ」は「雁」になる。(5月28日)  

◇   高田大岳の「馬」、東南部からの雪形、その後・・・・

この日、十和田湖町の湯ノ台や仙人平から美しい北八甲田山が眺望できた。しかしそれは瞬時のことでほどなく東南部から流れてきた霧に包み込まれてしまった。早朝7時半までであった。実際、私は写真Nに示した仙人平のロング映像や写真Oの高田大岳の「馬」のクリーンなものは撮影できなかった。「松形」や「鳶」の消失した状態を撮影しながら、ここに着いたのは午前10時でもう霧に被われていた。鮮明で美しい写真は友人の三浦博氏が撮影したもの。同氏の機転で最良のコンディションでここに紹介できた。



写真N 右・高田大岳の「馬」で完成まであと数日。中・鳶形岳の「鳶形」の消失した状態。左・松形岳の「松形」は旬を少し過ぎた状態。(仙人平から6月9日)



写真O 高田大岳の「馬」(仙人平、6月9日)   


写真P 「鳶形」はとっくに消失。(湯ノ台北口、6月9日)

高原は鮮烈な緑とタニウツギの紅色に彩られ、その背景の高田大岳などの峰々には「雪形」が輝いていた。「馬」は右上端部が顔で、口の部分がもう少したつと下の雪と分離する。耳もはっきりしてくる。そして立ち上がった姿の白馬が完成する。鳶形岳(小岳)の「鳶形」(写真P)は、前回の5月19日が旬で今はその姿を忍ぶものはない。松形岳(硫黄岳)の「松形」(写真Q)はいくらか旬を過ぎていた。もう少し前であれば主樹はもっと細く左右に張った枝ぶりが見事だったはずである。 ところで、このような雪形の成因はどういったものなのだろうか。ついついその現場を走破して確かめたい気持ちにかられるのだが、今回はオーナーの棟方氏の助言もあり松形岳の直下にある睡蓮沼にゆき、そこから側面観を仔細に撮影した。棟方氏は〈植生〉と〈地形〉の複合だと示唆してくれたが、確かにここから見ると、黒く見える松の部分は常緑の矮小木が主な植生であり、周囲の白い部分は地形的に窪んでいることから雪渓が厚くなっていることが分かる。


写真Q 「松形」は旬が少し過ぎた。
(猿倉温泉、6月9日)   


写真R 「松形」の成因は植生と地形。
(睡蓮沼、6月9日)


写真S 高原の湿原にレンゲツツジが咲く。(谷地湿原、6月9日)  


写真21 シジミチョウ科のトラフシジミ。
(狐久保、5月28日)

八甲田山の雪形が美しい姿を見せてくれる高原地帯。湿原にはレンゲツツジも旬の季節を迎えていた。高田大岳の「馬」はあと少し、大岳の「駒の雪」の完成にはまだ幾旬かの時間が必要だろう。 今回のリポートには友人の三浦博氏に大変お世話になった。同氏は最近「レッドデータブック・青森県版」にチョウの項目を執筆されたナチュラリストである。私とはかつて高校生物部の年下の同窓、そしてオーナーの棟方氏は私たち二人の同窓先輩に当たる。三浦氏撮影のシジミチョウ科のトラフシジミの吸蜜シーンも掲げておく(写真21)。

文責  室谷 洋司

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