青森県八甲田山の雪形         室谷洋司

雪形は春の農事暦

 五月から六月にかけて八甲田山のいただき近くに,くっきりと「蟹ハサミ」と「牛クビ」が見える.青森市の堤川と駒込川の合流点にある会社から,山寄りに七分ほどのところに我が家があるが,この残雪模様を眺めながらの帰り道がなんとさわやかなことか.(写真@,A)
 東京での三年間の勤務を終えて本社勤めとなった.かの地では交通が至便で日本アルプスには足繁く通い名山の数々をこの目で確かめたが,ふるさとの山に勝るものはない.ただその前座にある雲谷峠の山肌が深くいぐられてしまったのが痛々しい.
 長い冬の間,降り積もった高山の厚い雪が,日差しが強くなるにしたがって急速に解け,黒い山肌と残雪の織りなす模様が,見方によっては動物や人間のすがたにあるいは農機具などの形に見える.古くから農民たちはこれらを身近なものの姿に見たてて,農作業を始める目安にしてきた.その年の気象状況がよく反映されていることから,農事暦として極めて重要な,オラがお山が山麓の人々におくるメッセージであったのである.
 これを「雪形」(ゆきがた)という.その意味合いについてはあとで詳しく触れるが,個人的な見立てではなく,その地域で代々にわたって広く伝えられてきたものでなければならない.しかし,それらを検証し確認することは難しくなってきている.すべてが新しいものを求めてきた現代文明のなかで,人間が生活の智恵として培って来た多くのものが押しやられ,消え失せる寸前というのが現状である.







青森市駒込から見た八甲田山.「種蒔き爺」  はほぼ完成。
@青森市駒込から見た八甲田山.「種蒔き爺」 はほぼ完成.
ほかも輪郭が現れてきた. (1980年5月16日.室谷洋司写)

「三本鍬」「蟹ハサミ」「牛クビ」「種蒔き爺」
A青森市桜川から見た八甲田山.左から「三本鍬」「蟹ハサミ」「牛クビ」「種蒔き爺」. (1980年5月27日.室谷洋司写)

「三本鍬」「蟹ハサミ」「牛クビ」「種蒔き爺」
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